7. カルチャーショックは現実に(キャリアとジョブロール)

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勤めていた会社が突然スウェーデン企業の傘下に。スウェーデン人やその他の国の人たちと一緒に働いて感じたことを記事にしています。
グローバルの標準システムを日本の多分野に導入する移行プロジェクトが進みます。それに伴い日本のITチームにもいろいろな変化が起きてきます。
ジョブロールの適用
まずはジョブロールです。グループ内の他の国と同様に日本のITチームにもジョブロールが適用されることとなりました。
いままでなんとなく「自分は生産管理系が強いシステムエンジニア」とか「Javaのプログラミングならまかせて」など、それぞれがそれなりに自分の得意分野を持っているんですけど、今回はITチームの個々人に対してそれぞれジョブロールの適用が進みます。
グローバルでは「ジョブロール」毎に「ジョブディスクリプション(職務定義書)」が明確に定義されていて、しかもそのレベルまでが細かく規定されているので、それを理解しながらの適用作業です。

各メンバーは、それまでの自分のスキルを振り返り、ジョブディスクリプションを細かく読み解き、そして、これから自分はどんな職務を極めていきたいのかを考えて、マネージャーともよく相談しながら自ら決めていきます。IT要員のジョブロールへの再配置です。

例えば、プロジェクトマネジメントも経験した経理系業務に強いシステムエンジニアは、「プロジェクトマネージャー(PM)」なのか、経理系の「ビジネスアナリスト(BA)」なのか、或いは技術にフォーカスした「ITアーキテクト(IA)」なのか、複数の可能性があります。将来の目標としていくレベルまでをも考慮して、自分自身のこれから進むべき道に悩みながらも、とにかく一度決定するのです。
キャリアの変化
幸いにも自分はIT系の学校を出て、希望通りITの部署に配属されて、ITの仕事は天職だと思っていたので、このジョブロールの適用作業には、それほど大きな違和感はなかったです、でも気がついてみると自分のようなケースは実は珍しかったみたい。
それまでは、例えば、新卒社員で入社したようなケースでは、(たぶん特に文系出身者とかは)普通に会社に就職して、多少の希望はあったにしても、なんとなく各部署に配属されるようなケースが多かった。
IT部門に配属された同僚や先輩たちをみても、初めからITの仕事がしたかったという方は、実はあまりいなかった印象で、たまたま配属されただけの人たちが中心だった。(でもすごいのは偶然配属されたIT部署でも、ゼロから学習し、日常の業務を通じてスキルを習得し、そして一人前に仕事ができるようになる人が多かったこと。成り行きでもなんでも、とにかく与えられた職務に適用してキャリアを積んでいくのが日本人サラリーマンですね。)
何はともあれ、いままで日本で当たり前だった、このキャリアの考え方も大きく変わりました。与えられた職務の担当者との立場から始まり→そのチームのリーダーに選ばれ→運が良ければ管理職試験→そしてうまく合格すると管理職への可能性。
それまでは、キャリアを上げていくことは、リーダーになったり、管理職になること。もし管理職試験を突破できなかったりすると収入増の道は止まってしまうことも。いくら特定分野のプロになっても管理職にならないと給料は頭打ち傾向になってしまいます。
つまり、それまでの日本のキャリアは、本当の意味での就職(職務に付く)ではなく、就社(会社に入る)の意識が高かったんですね。そしてキャリアを上げることは、すなわちその会社の業務に精通して、管理職になって、収入を増やすことでした。
ちなみに、導入されたジョブロールのレベルにはA~Fまであります。
(ラインマネージャー(LM)のレベルはD~Fなので、つまりD以上は管理職相当になる。)
それぞれのジョブロールにもD以上のレベルを持っているものがいくつもあります。管理職にならなくても収入増の可能性はあるのです。
そうすると、自分のキャリアを上げていくことは、自分のジョブロールを極め、そのレベルを上げていくことになります。
ただ柔軟性もあって、同一ジョブロールでレベルを上げるだけでなく、自分のジョブロールを自分の成長に合わせて順次変化させていく、複数のジョブロールをまたいでレベルを上げることも選択肢のひとつです。
例えば、今はITアーキテクト(IA)だが、次のステップとしてビジネスアナリスト(BA)を経験し、将来的には高いレベルのプロジェクトマネージャー(PM)になることを目指す、みたいなこともOK。

長くPMを経験してからラインマネージャ(LM)になることも可能です。
キャリアを上げる方法は
自分のレベルを上げたりジョブロールを変えて自分のキャリアを上げる具体的な方法は、社内のイントラネットに沢山公開されている社内公募欄から自分に合ったものを選んで、自ら応募し合格することです。応募しても簡単に合格する訳ではありませんが、自ら動くことで、キャリアアップを期待できます。
もし同じ職場で、同じ業務を、同じように繰り返しているだけでは、ジョブロールもレベルも変化しない論理になります。
ごくまれに、自分の上司が、自分のジョブロールのレベルを上げてくれようと、自部署でワンランク上のレベルの同一ジョブロールを公募してくれるようなこともあります。が、もしそこに他部署からの優秀な人や、或いは他の国から同一ジョブロールの応募者がいたりすると、ひょっとすると上司は気が変わって新しい(優秀な)人を採用したくなったり、少なくてもどうしようかと悩んだりすることもあったみたいです。
それまでの、なんとなく他力本願で、ゴールは管理職だけだった、の日本のキャリアの形成方法から、今度は多様な、将来に向け自分はどんな職務を担当していきたいのかにより、そして公募欄から選んでいくキャリアの形成方法に変わりました。自分のキャリアは、自ら考えて、多様な可能性にチャレンジすることで実現していくのです。
このことは上司と部下の関係にも新しい緊張感が生まれます。もし上司が部下を適切に評価できていないと、その部下は自由に他の部署で出て行ってしまうことも。部下は絶えずキャリアアップの可能性を探してますし、一方で上司は部下が居心地が良い職場環境になるようにいつも気を配っていないといけませんね。
このジョブロールの適用とキャリアの考え方の変化は、日本のそれまでのやり方に慣れ親しんでいた自分たちにとっては、英語に続く大きなカルチャーショックでした。
繰り返しですが、幸いなことは一度自分のジョブロールを決めたとしても将来変更することが可能であること。それと自分の意志と社内公募制で、いつでも良いジョブロールや良い他の部署へチャレンジができる、いくらでもやり直しができるのです。
キャリアの考え方の違い
スウェーデンでは、このジョブロールとキャリアの考え方はどうやら当たり前。仕事とは自分のジョブロールを明確にして、与えられたノルマをこなし、その専門性を高めていくことに集中して、結果を出していくこと。このことが自分のキャリア形成となっていくんですね。
今まで日本では「自分は〇〇会社IT部門の△△です」と言ういわゆるメンバーシップ型(メンバーシップ型雇用)が多かったと思いますが、それが「自分はIT分野でPMをしている△△です」と言うジョブロール型(ジョブ型雇用)に劇的に変わりました。
ちょっと脇道に入りますが・・・
スウェーデンではキャリアを上げていくために部署が変わることが多いみたいです。そして部署だけでなく会社を変えることも一つの普通の選択肢みたいです。自分のキャリアを上げる可能性がある場所(社内外を問わず)へあまり躊躇せず異動していく印象。
知り合った同僚達も、普通に転職して別の会社に異動していくケースをよく聞きました。いまではSNS(例えばLinkedIn)とかで昔の仲間たちと繋がっているので、一度転職しても、また会社に戻ってくることもあり(日本では一度退社するとなかなか同じ会社に戻れるケースは少ないと思います)、とにかく人の流動性が高い感じです。
「ラインマネージャー」もひとつのジョブロールなので、もちろん管理職を極めていくことも、変わらずキャリアのひとつとして存在します。このような多岐に渡るジョブロールにより、多様なキャリア形成の道が開かれます。
スウェーデン人と働いて感じたこと |
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0. スウェーデン人と働いて感じたこと 1. ある日突然上司がスウェーデン人 2. 英語が何とかなる人、そうでもない人 3. 英語にもいろいろあります 4. Attractive Work Place(魅力的な職場) 5. 自分のキャリアは自分で切り開く 6. ハードワークってほめ言葉? 7. カルチャーショックは現実に(キャリアとジョブロール) ・続く・・・ |
6. ハードワークってほめ言葉? |
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どうやらスウェーデン人にとってハードワークは、ほめ言葉ではないみたい。仕事に集中し早く家に帰ることに価値があり、それが生産性の向上に繋がっているみたいです。 |
8. Learning Opportunities(学習の機会) |
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自分のキャリアを上げていくために、実践で経験を積むことに加えて、ここでは知識や技術を学習する機会、グローバルで提供されていたLearning Opportunities(学習の機会)についてまとめました。 |